研究概要 |
60K級のYBa_2CU_3O_<6+y>,(YBCO_<6+y>)系では、その磁気励起スペクトルX"(q,ω)に超伝導転移温度T_Cよりもかなり高い温度からギャップ様構造が現れる。このスピン(擬)ギャップ現象を、高温超伝導体の様々な異常物性の理解の鍵として研究した。最近我々はYBa_2Cu_3O_<6+y>のB2u対称フォノンを中性子散乱研究によってしらべ、スピンギャップ現象が超伝導と同じ対称性をもったsinglet対形成によるものであることを示した(これは反強磁性相関の発達する温度T_0あたりから始まる)。このsinglet相関が低温で長距離秩序となることによって超伝導になると考えられる。本研究では、(Mott絶縁相にドープした)正孔濃度pをさらに減少させて、反強磁性相との臨界濃度p_C近づけた試料における磁気励起スペクトルX"(q,ω)の特徴を、単結晶を用いた中性子非弾性散乱によって調べた。 YBCO_<6.45>(T_C〜32K)及びさらにp_Cに近いYBCO_<6.4>(T_C<20K)において、逆格子空間の点Q=(3/2,1/2,-1.7)のまわりで測定されたX"のエネルギー依存性に、室温付近の高温域でギャップ様構造が観測された。この結果は、T_0から反強磁性相関の発達とともにsinglet相関(ギャップ様構造として現れる)も同時に成長してくることを支持している。一方、温度を下げるとその低エネルギー域のスペクトルウエイトが増大して、ギャップ様構造が消失する(p_Cに近いYBCO_<6.4>の方がより顕著である)。低温でのこの振舞は、Zn置換によって超伝導を抑制したYBa_2Cu_<2.9>Zn_<0.1>O_<6.75>のそれによく似ている。このことから、低温で超伝導(singlet)相関と反強磁性相関のどちらが支配的になるかを決めるのに、電子の遍歴性が重要なパラメーターとなっていることがわかる。
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