研究概要 |
高温超伝導体の異常物性(異常金属相)の出現に反強磁性相関とsinglet(超伝導)相関が果たす役割を主に研究してきた。研究成果として得られた主要な点は次の通りである。 1.underdoped YBa_2Cu_3O_<6+y>(y〜0.4and0.45)の単結晶試料を用いて、広い温度域における磁気励起スペクトルX"(q,ω)の測定を行った。その結果室温においてすでに対形成の効果によるギャップ様構造が見られることを示した。この結果は、singlet対形成がいわゆるスピンギャップ温度T_<SG>(NMRの1/T_1Tがピークを示す温度)よりももっと高温から(むしろHall係数などの輸送特性に異常が現れる温度T_0付近から)、反強磁性相関が顕著に発達しはじめるとほぼ同時に成長しはじめることを示しているようである。 2.わずか0.5%Znで置換したYBa_2(Cu_<1-X>Zn_X)_3O_7の試料において、超伝導転移温度(T_C)よりもかなり高い温度から、その磁気励起にするどいピーク(resonance peak)が観測されることが最近報告された。このresonance peakはsinglet対の存在(スピン擬ギャップの存在)と密接に結びついているはずなので、このような系においても擬ギャップの効果が観測されるのではないかと期待された。中性子散乱によるB_<2u>フォノン測定、NMR、面内電気抵抗測定という擬ギャップの存在に敏感な手段を用いて研究を行ったが、60K級YBCOで見られたような擬ギャップ的振舞は現れず、わずかなZn置換が擬ギャップを顕著に強めるという証拠はいっさい得られなかった。この結果からT_c以上で観測された磁気励起ピークはresonance peakではなく、むしろ常伝導状態(オーダーパラメーターΔ=0)においても存在するシグナルである可能性が高い。このようなYBCO系の磁気励起の理解には、q-ω空間における構造を詳しく調べ、resonance peakとみられる成分とその他の成分(incommensurate位置にピークをもつと思われる。)の振舞を分離して知ることが必要である。
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