本研究の目的は、より高いT_cを持つ銅酸化物高温超伝導体を合成するための指針を得るために、その第1歩としてHgBa_2CuO_<4+δ>の良質単結晶の作製に最適な結晶育成手法を決定し、実際にその育成を試みる事にあった。これまで報告されているのはすべて封管法を用いたものであり、HgOを含むプリカーサーの部分溶融状態から結晶が得られている。この方法で得られている最大の単結晶サイズはせいぜい0.1mm角である。本研究では、さらに大型の結晶を育成するために、VやTiの酸化物単結晶成長について有効な方法である化学輸送法を試みたが、残念ながら結晶は得られなかった。また、水熱合成法を適用するための準備実験として、CrO_2単結晶合成を試み、1mm弱の大きさの単結晶を得た。CrO_2は室温以上にキューリー点を有する強磁性金属であり、最近、Mnペロブスカイトとの関連で同様に2重交換相互作用により強磁性が発現していると主張されている。巨大磁気抵抗効果を示す可能性もあり注目されているが、単結晶によるデータは限られており、今後その物性を明らかにする上で良質単結晶が重要な役割を果たすと思われる。水熱合成法は銅酸化物を含む遷移金属酸化物単結晶育成に重要になると考えられる。また、水溶液中から興味深い物性を示すと期待される銅酸化物Cu_3V_2O_7(OH)_2・2H_2Oを合成し、その物性を磁化率、比熱、NMR、ESR測定を通して明らかにした。これは、典型的な2次元フラストレート系であるカゴメ格子を有し、その基底状態は長距離秩序ではなく、何らかのスピン液体状態と考えられる。また、新規な1次元銅酸化物の合成と磁性の研究も行った。
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