本研究の目的は、現行のFLAPW法の計算プログラムをLDA_+U法に使える様に変更を加え、これを用いて一電子基底状態において強いクーロン相互作用の効果が顕著に現れていると予想されているf電子化合物等の主に非磁性の四極子秩序状態や一重項基底状態にある系の電子構造を計算し、dHvA効果や光電子分光などの実験と詳細に比較することにより、クーロン相互作用の役割を明らかにすることにある。本年度は高速大容量のワークステーションを購入し、FLAPW法の計算プログラムの移植及びLDA_+U法の予備計算を行った。一方でLDA_+U法の効果を吟味するためにLDAの範囲内で研究も並行して行った。具体的にはYCo2、YbPb3、YbSb2、Yb4As3、LaNi2A15、CeNi2A15、YbIn3、LuIn3、YIn3、LuB12等の一連の化合物の電子状態とフェルミ面を求め、実験と詳細に比較した。これらの研究の結果、直方晶の結晶構造を持つ化合物やf電子を閉殻として持つ化合物においては、LDAはかなりよく実験を再現することが明らかになった。これらの研究結果はすでに投稿あるいは出版されている。 LDA_+U法を適用するプログラムについては、原子状態に対してスピン軌道相互作用の基底状態を用いた方法のプログラムを試作して、PrやSmなどの非磁性の基底状態を持つ原子に対して計算を実行した。ただし、これはUの効果が顕著に現れるように簡便化した方法であり、密度行列を用いる一般化された方法のプログラムは現在開発中である。現実の物質の基底状態は結晶場で分離しているため、この効果も加えた原子状態での計算を経て、固体へ適用する予定である。
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