研究概要 |
内殻から外殻への電子遷移を伴うX線吸収の磁気円二色性(MCD)スペクトルの積分強度と、強磁性体中の原子のスピン・軌道磁気モーメントを結びつける総和則の存在は、今日よく知られている。しかし、この総和則は、ある方向に磁化が存在する強磁性体或いはフェリ磁性体にしか適用できないので、反強磁性体には全く無力である。この研究では、外殻majority spin状態が完全に占有されている原子磁気モーメントを持つ磁性体において、反強磁性体も含めて、等方的(isotropic)吸収スペクトルの内殻スピン・軌道相互作用による分岐比と原子の軌道磁気モーメントの大きさとの間に成立する関係式を導いた。 次に、Duda達によって測定された強磁性Fe,Co,Niの2p内殻しきい値近傍での共鳴X線発光におけるMCDスペクトルと、3d軌道電子占有の関係を理論的に調べることを通じて、この分光法のMCDの特徴を検討した。Duda達は、X線発光MCDが、入射光のエネルギーを(A)2p_<3/2>しきい値,(B)2p_<3/2>と2P_<1/2>の中間、(C)2P_<1/2>しきい値、(D)それ以上のエネルギー-の4つ場合で大きく異なることを示し、これがX線吸収のMCDと大きく異なることを明かにした。この研究では、2p内殻と3d外殻間の電子の双極子遷移とコスター・クローニヒ崩壊2P_<3/2>3d^<n+1>→2P_<1/2>3d^nε_dを考慮することにより、上記4つのケースの発光スペクトルとMCDスペクトルが矛盾なく説明される事を示した。
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