研究概要 |
本研究の目的は,超高純度金属単結晶を用いて,ミリメートル・サイズのバリスティック領域を実現し,バリスティック伝導特性の結晶方位依存性を明らかにしようとするものである.本年度は,超高純度アルミニウム単結晶の育成・加工および微小電圧測定装置の整備を中心に研究を進め,以下のような結果を得た. 1. 帯溶融法の改良により,大きさが20×20×200mmで,液体ヘリウム温度での伝導電子の平均自由行程が5mmにも達する超高純度アルミニウム単結晶(残留抵抗比〜180000)の育成に成功した. 2. この結果,フェルミ面や速度分布などの電子構造が明確で,且つ,バリスティック伝導の特徴を最もよく捉えることのできる,任意の結晶方位の十字型単結晶試料を放電加工機を用いて製作することが可能になった. 3.液体ヘリウム温度での試料の電気抵抗がnΩのオーダーであることから,超伝導量子干渉計を導入して測定感度の向上を計り,mA以下の微小電流領域における,電流-電圧特性の定量的な解析を可能にした. 4. 十字型試料の電流-電圧特性を液体ヘリウム温度で測定し,電流方位が<100>の場合のバリスティック伝導の効果は,<110>の場合の効果に比べ,小さいことを見い出した.これは,アルミニウムのフェルミ面が<100>方向でゾーン境界に最も近接していることから,ブラッグ反射の影響と考えられる. 5. 十字型構造以外の形状についても実験を行い,電流方向に沿って電場が変化する場合には,電流方向,電圧端子の位置および端子間の距離に強く依存した,非線形な電流-電圧特性が現れることを見い出した. 以上の準備を踏まえ,次年度は,十字型試料を中心に測定を進め,バリスティック伝導の結晶方位依存性を定量的に明らかにする.
|