研究概要 |
前年度に引き続き、Flux法により作成した単結晶YbInCu_4中のCu NQRの圧力依存性の測定を行った。常圧下では、価数揺動状態にある低温相と局在状態にある高温相ではそれぞれ異なる周波数にCu NQR信号が観測される。低温相ではこれが14.1MHzでほとんど温度変化せず、価数相転移直上の高温相では14.9MHzで温度の上昇に伴う結晶の膨張で徐々に低周波数側にシフトしていく。転移点においては、低温相と高温相の信号が共存し、この転移が一次の相転移であることを示唆する。Cu NQRの周波数から決めた転移点の圧力効果は-2.2K/kbarであり、以前に電気抵抗の圧力下における温度変化の測定から求められた値と、ほぼ一致している。Cu NQRのスピン一格子緩和率T_1^<-1>は、低温相では(T_1T)^<-1>が一定のコリンハ則に従って温度変化し、高温相では温度の変化に対してほとんど一定である。これは、低温相ではYbの4f電子が遍歴的状態にあり、高温相では局在状態にあることを示す。圧力下においても転移点以下では(T_1T)^<-1>が一定であり、転移点以上ではT_1^<-1>が温度の変化に対して一定であった。ただし、低温相の(T_1T)^<-1>の値は、圧力の増加とともに増大した。この結果は、圧力の増加に伴って、低温相におけるフェルミ面での状態密度が増加することを示しており、同時に転移温度が降下することから、状態密度ひいてはバンド構造と価数相転移の機構が密接に関連していることを示すものと考えられる。今後の理論的解明が期待される。実験的にはYbInCu_4中のInイオンを他のCd,Mg,Tlイオン等に置き換えた系を作成し、その物性を詳しく調べることでYbInCu_4の価数相転移の機構についてより詳しい知見を得たいと考えている。本年度行った研究の一部は論文としてとりまとめ、出版される。
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