本研究では、0.8μmの隙間の平行平板空間内での超流動ヘリウム3の相転移現象の実験研究を行い、超流動ヘリウム3系に対する壁での境界条件が超流動相の安定性に大きな影響を与えることが明らかになった。超流動ヘリウム3は異方的なBCS状態であり、この異方性は実空間で現れる。試料空間の異方性との競合の結果、空間の形状、大きさに特有な超流動状態間の相転移(A-B相転移)の観測や、超流動転移温度が変化することが予想される。BCS状態はコヒーレンス長程度の大きさをもつ粒子対からなり、そのコヒーレンス長は低圧力では長く、高圧力では短いため上述の予想は低圧力での測定ほど顕著になる。測定では新たに開発した高Q値のNMR共鳴回路と低温増幅器を用いた。以前の1.1μmの実験結果と比較し、全ての圧力でより低い温度でのA-B相転移を観測し、また超流動転移温度の低下も観測した。A-B相転移温度の低下は低圧力ほど顕著であり、約2bar以下ではもはやA-B相転移が起こらなかった。2つの異なる空間サイズでの実験よりA-B相転移は臨界厚み(空間の大きさとその温度でのコヒーレンス長の比)という普遍的な量でまとめることができることがわかった。試料空間の表面をヘリウム4数層の薄膜で覆った場合A-B相転移温度が上昇する結果を得た。ヘリウム4の薄膜が超流動状態になるために超流動ヘリウム3系に対する壁での境界条件が変化するためと考えられるが、今までに提案されている全ての理論予測は転移温度の降下であり全く逆の結果である。実験結果と比較できる定量的な理論計算はなく新たな理論考察の必要性を示した。
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