従来巨視的物理量の測定と現象論的解析が中心であったスピングラスをはじめとする複雑・不規則系における長時間緩和現象に対して微視的実験に基礎をおき、物理的意味の明確な解析法を取り入れた新しい手法を確立する事が本研究の目的である。 高濃度スピングラスに属する物質の中で磁気クラスターのサイズ、数(及びそれらの温度変化)が対照的であるホイスラー型合金Cu_2(Mn_<0.7>Ti_<0.3>)Alとインバー型合金Fe_<65>(Ni_<0.85>Mn_<0.15>)_<35>単結晶試料とについて磁化率の時間依存性、電気抵抗、中性子小角散乱実験を行なった。磁化率測定においては一定の待ち時間を経た後磁場を印加した後での磁化率の時間変化には著しい違いのあることが確認された。電気抵抗測定ではインバー型合金だけでなく、金-鉄高濃度スピングラス合金においてもリエントラント転移温度より遥かに低温において抵抗の極小が見られた。中性子散乱実験は小角散乱装置により緩和初期におけるクラスター形成過程を実時間で追跡した。強磁性領域から急速にリエントラントスピングラス相に冷却した後の散乱強度を10-20分の時間間隔で時分割測定を行なった。零磁場冷却の後一定の待時間をおいた後弱磁場を印加し、磁場印加後の時間の関数として散乱強度を測定した場合、散乱強度の時間変化に顕著な磁場方向による異方性が観測された。同条件での巨視的磁化率測定と対応させて、磁気クラスターの時間発展についての解析を進めている。
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