研究概要 |
量子スピン系では,強い量子ゆらぎがはたらく場合,反強磁性などのスピン秩序が形成されず基底状態が無秩序状態となることがある.このときスピンの励起には有限のエネルギー,すなわちスピン・ギャップが必要となる.スピン・ギャップ出現のメカニズムや基底状態の性質は,いくつかの特別な系においては理解されてきているが,秩序状態が形成されている系の理解と比較して十分ではない. 本年度は,まず2次元の量子スピン系と見なせる物質CaV409の帯磁率の実験を解析した.この物質の基底状態は無秩序状態でスピンの励起エネルギーにはギャップがあることが実験的にわかっている.しかしながら,この無秩序状態の原因については,中性子散乱の実験と帯磁率の実験は異なったものを示唆していた.そこで帯磁率は高温側で温度の逆数の解析関数となりベキ展開できることを使って,帯磁率の実験データを新しい観点から分析し直した.その結果,実験サンプルに非磁性の成分が含まれていることが明らかになり,これを補正すると帯磁率の実験結果は中性子散乱の実験と矛盾しないことが示された. 量子スピン系を表すハイゼンベルグ模型を非線形シグマ模型に変換し,スピン・ギャップの有無を判定することは本年度の中心的な課題である.過去の研究では,変換した後に自由度の数が変化しているなどの例も多く,無矛盾で一般的な扱いは確立していない.そこで,周期性を持つ1次元スピン系の場合に,何周期かを1つのブロックとしてブロックごとに変換を行い,非線形シグマ模型を導出した.この定式化は,周期的であればどのような長周期のスピン系にも適用できる一般性の高いものである.1周期の中においては,すべての交換相互作用の強さが異なっていてもよく,各格子点ごとのスピンの大きさも異なっていてよい.
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