本研究期間にスピン1の反強磁性ボンド交替鎖、S=1/2と1のスピン交替鎖、S=1/2の強磁性-強磁性-反強磁性-反強磁性交替鎖、S=1/2の二本足の梯子状反強磁性鎖とジグザグ反強磁性鎖の候補物質であるニッケルや銅の錯体化合物を合成し、様々な磁気測定や熱測定を行った。いくつかのニッケルのボンド交替鎖化合物を合成し、帯磁率や磁化測定を行い数値計算との比較を行って交替比や交換相互作用定数を求めた。この系の特筆すべき点は磁化の量子化にあたるプラトーを観測したこと、Affleck-Haldane予想の検証になるギャップレス点の存在を実験的に確認したこと、あるニッケルのボンド交替鎖の基底状態がシングレットダイマー相にあることを実験的に確認したことである。2番目、3番目の化合物は量子フェリ磁性体の研究に対応する。磁気測定を詳細に行いこれらの系の特徴的な磁性を明らかにした。特に磁化曲線は古典的なフェリ磁性体のそれとは異なりメタ磁性的な飽和磁化への遷移が見られた。この系の相関長の短さに由来すると考えている。4番目、5番目の系に対応するのは銅の梯子状鎖化合物やジグザグ鎖化合物であり、帯磁率、磁化や比熱を測定した。前者は数値計算結果との比較から梯子の方の交換相互作用定数が足方向のそれの5倍ほどの大きさであることが分かり、7T以下の磁場中の比熱は計算された比熱とよくあうのに対し、7T以上の磁場では低温で二種類のピークが観測され計算とは異なった。後者の化合物の帯磁率や磁化を近接一次近接相互作用のあるS=1/2の反強磁性鎖の計算結果と比較して独立した二本の鎖に近い系であることがわかった。
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