本研究は、典型的な水素結合系強誘電体である燐酸二水素カリウム(KDP)の構造相転移機構がソフトモードで特徴づけられる変位型であるのか、あるいは緩和モードで特徴づけられる秩序・無秩序型であるのかを明らかにすることを目的としたものである。この目的のため、超短パルスレーザー光を衝撃力として試料に加え、そのインパルス応答関数を実時間で計測することにより、ラマン散乱で観測されている強誘電性セントラルモードが過減衰ソフトモードなのか、あるいは緩和モードなのかを決定する。 130フェムト秒のパルス幅を持つ現有のTi:Sapphireレーザーで実験を開始した。その結果、強誘電性セントラルモードを励起することに成功し、その強度の時間依存性は緩和モードで記述できることが分かった。また、このモードの緩和時間はこれまで報告されている誘電緩和やラマン散乱で得られている電気分極のゆらぎの緩和時間と良い一致を示す。したがって、KDPの構造相転移機構が秩序・無秩序型であると結論できそうである。しかし、強誘電性セントラルモードが過減衰ソフトモードであるとしても、振動的な振る舞いが顕著に現れるのは110フェムト秒程度であり、現有の130フェムト秒のパルス幅では振動的な振る舞いを観測するのは困難である。したがって、過減衰ソフトモードであっても緩和モードとして観測されてしまうため、構造相転移機構に関しては確定的なことが言えない。 現在、現有のパルスレーザーシステムにパルス幅圧縮装置を組み合わせ、パルス幅80フェムト秒のパルス光を作るためのシステムを完成させたので、これを用いて実験を発展させて行く予定である。
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