本研究は、典型的な水素結合系強誘電体である燐酸二水素カリウム(KDP)の構造相転移機構がソフトモードで特徴づけられる変位型であるのか、あるいは緩和モードで特徴づけられる秩序・無秩序型であるのかを明らかにすることを目的としたものである。この目的のため、超短パルスレーザー光を衝撃力として試料に加え、そのインパルス応答関数を実時間で計測することにより、ラマン散乱で観測されている強誘電性セントラルモードが過減衰ソフトモードなのか、あるいは緩和モードなのかを決定しようとしている。 平成10年度は130フェムト秒のパルス幅を持つ現有のTi:Sapphireレーザーで実験を開始した。その結果、強誘電性セントラルモードを励起することに成功し、その強度の時間依存性は緩和モードで記述できることが分かった。また、このモードの緩和時間はこれまで報告されている誘電緩和やラマン散乱で得られている電気分極のゆらぎの緩和時間と良い一致を示す。したがって、KDPの構造相転移機構が秩序・無秩序型であると結論できそうである。しかし、強誘電性セントラルモードが過減衰ソフトモードであるとしても、ラマン散乱の結果より振動的な振る舞いが顕著に現れるのは110フェムト秒程度であると考えられ、現有の130フェムト秒のパルス幅では振動的な振る舞いを観測するのは困難でるり、過減衰ソフトモードであっても緩和モードとして観測されてしまう可能性がある。 平成11年度はパルス幅80フェムト秒のパルスレーザーシステムを新たに構築し、これを用いて実験を進めている。その結果、波数が4100cm^<-1>のインパルス応答関数が約150フェムト秒にピークを持つというデータが得られた。これは励起した強誘電性セントラルモードが慣性を持つ事になり、過減衰ソフトモードであることを意味しており、KDPの構造相転移機構が変位型であると結論できる。現在、再現性のチェックを行っているところである。
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