熱力学的に安定な液相が存在するか否かで近年注目を集めているC_<60>に対してモンテ・カルロ(MC)法による計算機実験を行い、その相図の振舞いを調べた。C_<60>の分子間相互作用は近距離における反発性が非常に強く、計算機実験でビリアル圧力を高精度で求めることは困難である。本研究ではこの困難を避けるために、MC法で得られた内部エネルギーを積分する方法(エネルギー・ルート)および解析的に計算された低次のビリアル係数を援用する方法を用いてC_<60>流体の自由エネルギーを求めた。それを用いて相図の予測を行った結果、C_<60>の三重点は約1880K、気相-液相の臨界点は約1950Kとなり、その間で液相が存在することが明らかになった。 上記の結果は従来の結果と定性的または定量的に異なり、従来の計算機実験に問題があることが判明した。実際、いくつかの計算機実験では、固体的な構造の出現・消滅を観測することによって固化点と融点が直接決められていた。本研究では、C_<60>を例としてMC法による計算機実験を行い、このようにして決められる固化曲線と融解曲線はいずれも相平衡条件から決められる(バルクの)ものと大きく異なることを明らかにした。計算機実験で扱う系は本質的に有限系であり、二相共存に伴う界面エネルギーが無視できないために、固化または融解はバルクと相対的に起こりにくくなるのがその原因である。このことは殆ど目明であるが、C_<60>の計算機実験では度々見過ごされてきた。
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