研究概要 |
強電子相関系の物理をグリーン関数法で取り扱うことは,畢竟,バーテックス補正Γの問題に帰着される.この難問の解決に向けて,私は2段階から成る基本戦略を提唱している.第一段の自己エネルギー改訂演算子理論では,正確な自己エネルギーΣをその不動点とする演算子Fの存在を明らかにした.第二段では,この基本厳密理論の中心であるFを計算機に乗せるように近似することであり,これが本研究の目的である.なお,この近似形は計算機の能力向上と共に漸次改良されるべきものである. さて,この戦略に基づく最も粗い近似はワード恒等式でΓをΣに関連させる際にベクトル部分Γ_vの寄与を無視するゲージ不変自己無撞着(GISC)法である.このGISCを組織的に改良する手段として,ΓとΓ_vの比関数Rを導入した.そして,Rは静的長波長極限で電荷チャネルでは圧縮率に,また,スピンチャネルではスピン帯磁率に帰着されること,高励起或いは短波長極限では低次の摂動でよく記述されることなどの知識を駆使して,Rの近似形を一般的な立場から提案した.また,この近似形を電子ガス系に応用して,その動的物性を研究したところ,(1)パウリ原理に起因するブロッキング効果により,フェルミ面近傍ではΓとΣとの間には強い相殺効果があり,結果としてRPAがかなり正しい記述になること,(2)一方,フェルミ面から遠く離れたところでは,大きなΣの虚部のためにRPAで予言されていたプラズマロン(プラズマ量子を纏った電子)は存在しえないこと,(3)電子正孔間の励起子散乱効果により,短波長の動的構造因子にはスペクトル強度の低エネルギー側への強いシフトが見られること等を統一的見地から見出した. 超伝導に関してはGISCレベルでの研究を始めた.そして,フォノン機構においてはΓの効果は転移温度を高めることが分かった.ただし,その程度は系の詳細によるが,2倍程度の増加を見込める場合もある.
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