研究概要 |
本年度は,水素結合分子ガラスのボゾンピークの起源を明らかにするため,部分的に重水素置換したアルコールガラスの中性子非弾性散乱実験を行った。試料としては,水酸基のみおよびアルキル鎖のみをすべて重水素置換したプロパノール(CD_3CD_2CD_2OHとCH_3CH_2CH_2OD)およびグリセロール(CH_2(OD)CH(OD)CH_2ODとCD_2(OH)CD(OH)CD_2OH)を測定した。水素原子の非干渉性散乱が他の原子からの全散乱の10倍以上あることから,水素原子が付いている部分のみの振動状態を見ることができる。実験には東大物性研のAGNES分光器(日本原子力研究所改造3号炉に設置されている)を用いた。測定したエネルギー範囲は0.1-15meV,運動量範囲は1.7-2.6A_<-1>である。中性子散乱強度から計算したS(Q,E)スペクトルにおいて,プロパノールでは2meV付近,グリセロールでは3.5meV付近に最大値をもつボゾンピークが観測された。両試料とも,ピークエネルギーとピーク強度に重水素位置による変化は見られなかった。このことは,ボゾンピークの起源が,アルキル鎖のTorsionのような分子内振動ではなく,水素結合部分とアルキル鎖部分が同時に動く振動であることを示している。今回の結果を最近注目されているボゾンピークのモデルであるブロークンネットワークモデル(中山モデル)と比較したところ,定性的ではあるが非常に良い一致を見た。
|