活性機能としてベルーゾフ・ジャボチンスキー(BZ)反応の触媒分子Ru(bpy)_3(ルテニウム錯体)をイソプロピルアクリルアミドゲル(NIPA)に共有結合し、ゲル本来の体積相転移挙動と化学振動の絡み合いによって周期的な伸縮振動をするゲルを創製した。臭素酸ナトリウム濃度に対するマロン酸濃度の比、R=[MA]/[NaBrO_3]に依存して多様な化学波が出現した。即ち、Rの値の大きい時には、酸化波が繰り返し発生し、一方、Rの値の小さい時には、優勢な酸化状態の中に還元領域が発生した。この波は酸化波とは対照的で、還元波と称せられる。用いたゲルのアスペクト比は34:1であり、還元波はゲルの長さに沿って伝搬した。これは、このシステムがほぼ1次元的であることを意味する。この還元波はパルスのような振る舞いを示し、Rの値に依存して消滅や分裂など酸化波に見られない挙動が観測された。R=0.034の時、還元パルス波は波幅を狭めながら進行し、一旦消失した。その直後、消失地点から新たに互いに反対向きに進行する一対の還元パルス波が出現した。これはパルスの自己複製現象と呼ばれるものである。また、反対方向から進行してきた一対の還元パルス波が、衝突によって一旦消失する現象も見出された。その後、衝突地点で還元領域が現れ、反対向きに進行する一対の還元パルス波に成長した。これはパルスの保存現象と呼ばれるものである。このようなパルスの自己複製や保存現象の組合わせによって、シェルピンスキーのガスケットのような自己相似な時空パターンを形成できることを指摘した。更に、温度変化によるゲルの網目サイズの制御によって、上述の対称的な時空パターンに対して、非対称な時空パターンも出現し得ることも明らかした。
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