個々の蛋白質分子の疎水・親水・荷電各領域を原子間力顕微鏡(AFM)で可視化するための走査方法や装置の開発を行った。試料表面の異なる物理化学的性質を明確に同定するためには、それぞれの性質に対応するカンチレバープローブを用意しなければならない。カンチレバーを交換せねばならず、同じ試料領域をカンチレバーを交換して再度走査することは不可能である。そこで、光照射により疎水・荷電変換をするフォトクロミック色素をカンチレバーに導入するアイデアを導入した。カンチレバーを交換する必要がなく、異なる性質をもつプローブで同じ試料領域を繰り返し走査できる。カンチレバー探針に共有結合できるフォトクロミック色素(ビニルマラカイトグリーン(VMG))を先ず合成した。探針に導入したVMGでも疎水・荷電変換できることを確認した。走査時間を短縮できる吸着力マップ計測法とこのVMGプローブを用いて、試料表面の性質を明確に同定することに成功した。しかしながら、この走査は時間がかかり(30分)、装置のドリフトの影響を強く受ける。そこで、もっと走査時間を短縮できる(5分)非接触力計測によるマッピング法を開発し、蛋白質の電荷マッピングができることを示した。根本的に走査時間の短縮を図るために、AFM装置そのものの高速化することも行った。その結果通常の凹凸像観察で、250倍の高速化に成功した。この装置でのマッピングはまだ行っていないが、上述の走査手法及びVMGプローブの開発、及びこの高速AFMの開発により、蛋白質表面の物理化学的性質を精度よく高速にマッピングする道を拓いた。
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