研究概要 |
多価イオンの原子分子衝突において、最も優勢に起こる重要な反応過程は多価イオンが標的から電子を奪う電子捕獲反応である。標的が原子ではなく分子になると電子を奪われた標的分子イオンの崩壊過程が絡み多価イオン・分子衝突における電荷移行反応過程は、単に電子が移行する原子標的の場合のように単純ではなく、複雑な反応過程の全貌は未だ実験的に十分に解明されていない。本研究では、衝突後の多価イオンおよび標的分子の崩壊過程で生成された全粒子を同時計測できる新たな三粒子同時計測実験装置を開発し、α粒子とKr^<8+>多価イオン衝突系におけるN_2、O_2、COなどの二原子分子の崩壊過程および各崩壊過程の分岐比の詳細を解明し、本研究と並行して行っている反応全断面積測定の結果を参照して各崩壊過程の反応部分断面積を決定することにも成功した。また、多価イオンKr^<8+>の衝突系では、衝突エネルギーを減少させていくと、三粒子同時計測イオンペアーピークが二つのピークに分離したり、一電子捕獲過程で生成される分子イオンピークが高速側にシフトしていくなどの新しい現象が観測された。しかし、このようなピーク分離やピークシフト現象は、衝突後入射イオンが中性化するHe^<2+>-N_2,O_2,CO衝突系の二電子捕獲過程では観測されない。このことから、いずれの現象も衝突後の電子捕獲イオンと標的イオン間に作用するクーロン斥力によるポストコリジョン効果によるものと結論され、多価イオンから標的分子への運動量移行の様子や衝突ダイナミクスを調べる重要な足掛かりが得られた。また、本研究における全粒子のエネルギー分析により、多価イオン衝突における分子崩壊過程では概ねフランク・コンドン原理が成立していることが判明し、今日までのこの種の研究で議論されてきた単純な点電荷モデルなどで説明できる代物でないことが証明された。なお、本研究の研究経費の大半は三粒子同時計測実験装置の同時計測回路システムの電子回路の整備に充てられた。
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