糸状菌は環境条件に依存したコロニー形態を示す。この形態変化を理解する目的で、コウジカビコロニー形態成長の栄養濃度及び培地硬度依存性を明らかにし、さらに、拡散する有限量の栄養を消費して、多層に広がるコロニーのモデルの構築を行った。 培養実験では、低栄養条件でコンパクトからフラクタルな樹状形態への形態転化が見られ、フラクタルコロニーは成長に伴う基質条件の劣化とともに均一から断裂への成長形態の転化とともに発展することを見出してきており、これを論文にまとめた。 さらに、2次元正方格子上に均等に配置された栄養粒子を吸収して、格子上に多層の菌糸系を成長させるコンピュータモデルを作成した。菌糸成長に伴う栄養消費・非消費(基質栄養を常に一定に保つ)系、栄養粒子の拡散・非拡散系などを比較検討を行った。 モデルから、コンパクトからフラクタルへの転移が、低栄養下での栄養拡散の効果により生ずることが定性的に明らかになった。さらに、栄養拡散に対する菌糸成長の比率が高いほど、樹状形態が発展することが知られた。今後は成長率の異なる種々の実際の菌において、貧栄養条件下でのコロニー形態成長を実験的に比較検討し、成長率と、基質を開拓する成長戦略性との関連を明らかにする。 形態解析の基準を確立する目的で、非拡散系モデルでのコンパクトコロニー界面の自己アファイン性を解析した。その結果、コロニーが成長しうる栄養濃度範囲では、栄養消費の有無と、コロニー形成が単層か多層かによらず、成長指数βと荒さ指数αとの組み合わせは、よく知られた普遍クラスα+α/β=2を共通的にほぼ満たすことが知られた。これにより、モデル上はコロニー形態の転移は栄養拡散の効果が必要条件であることが結論された。この解析については投稿準備中である。今後は、栄養拡散による形態転移の解析とともに、菌糸系内栄養輸送による乱れの発展についての検討を行う。
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