本研究は、中空キャピラリー内を伝播するレーザー光によってポテンシャルを作り出し、特定の量子状態の原子・分子を誘導する技術の開発を目的としたものである。今年度は、昨年度製作した真空装置を使用して、中空ファイバー内を誘導されるCs原子を高感度に検出するための有効なイオン化法の開発、およびCs原子の誘導実験を行った。 1.イオン計数によるCsの高感度検出 レーザー光による誘導効果を確認するには、誘導される原子・分子を高感度に検出する手段が不可欠である。そこで、イオン化した原子をチャンネルトロンに誘導し、2次電子放出パルスを計数するイオンカウンティング法を開発した。原子のイオン化には、灼熱した電熱線表面における表面イオン化、また半導体レーザーとNd:YAGレーザーの2光子吸収による光イオン化を用い、Cs原子線の検出実験を行ってその感度を評価した。 2.Cs原子の誘導実験 中空キャピラリーに数百mWの近赤外レーザー光を入射し、キャピラリーから出射するCs原子数を測定した。レーザー光を入射すると、Cs原子数が増加する現象が観測された。原子数はレーザーパワーとともに単調に増加するものの、光ポテンシャル効果に特有の共鳴付近でのレーザー周波数依存性を示さなかった。レーザー照射に伴う何らかの熱的効果とも考えられるが、現状では原因の特定には至っていない。 最終目標である量子状態を指定した原子・分子の光誘導には至らなかったものの、目的達成のための基盤技術である原子の高感度検出法を確立したことは本研究の重要な成果である。特に光イオン化計数法は、測定の自由度に優れ、ヨウ素などの分子にも適用しうる。今後、誘導実験を分子にまで拡張していく際に有効な技術である。
|