本研究は、中空キャピラリー内を伝播するレーザー光によってポテンシャルを作り出し、特定の量子状態の原子・分子を誘導する技術の開発を目的としたものである。 1.原子ソース部、キャピラリー設置部、誘導原子検出部からなる真空装置(到達真空度10^<-8>Torr)を製作した。 2.誘導用レーザーの周波数安定化のために、薄いセルを用いた高分解能分光法を開発した。狭窄化したスペクトル線の中央に半導体レーザー周波数をロックし、周波数安定度を測定したところ、アラン分散の平方根で10^<-10>以下の良好な値が得られた。 3.キャピラリーに原子を入射させる際、速度の遅い原子線を用いるのは、誘導効率を上げる有効な方法である。そこで予備実験としてRb原子線のレーザー冷却実験を行った結果、レーザー照射によって最確速度を半分に減速することができた。 4.レーザー光による誘導効果を確認するには、誘導される原子・分子を高感度に検出する手段が不可欠である。そこで、イオン化した原子をチャンネルトロンに誘導し、2次電子放出パルスを計数するイオンカウンティング法を開発した。原子のイオン化には、灼熱した電熱線表面における表面イオン化、また半導体レーザーとNd : YAGレーザーの2光子吸収による光イオン化を用い、Cs原子線の検出実験を行ってその感度を評価した。 5.中空キャピラリーに数百mWの近赤外レーザー光を入射し、キャピラリーから出射するCs原子数を測定した。レーザー光を入射すると、Cs原子数が増加する現象が観測された。原子数はレーザーパワーとともに単調に増加するものの、光ポテンシャル効果に特有の共鳴付近でのレーザー周波数依存性を示さなかった。レーザー照射に伴う何らかの熱的効果とも考えられるが、現状では原因の特定には至っていない。
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