研究概要 |
量子化は微視的対象を扱う際の最も基本的な概念であるが,通常用いられている正準量子化は有界な多様体上の系にそのまま適用することができない.これに対しては正準量子化を修正して用いるディラックの方法が古くから知られているが,数年前われわれはより一般的な視点から量子化を再定式化することを試み,このアイディアをD次元球面上の量子論に適用して,非自明なゲージ構造の存在など興味ある結果を見出した.この種の理論では,量子化を規定する演算子に対する基本代数の表現論が決定的に重要な役割をもつ.特に幾何学的な対称性のある多様体上では,基本代数の表現に群の誘導表現の技法が有効である.この仕事はその後も種々の補足を行い,今年度招かれてその総合報告を,ポーランド・ポズナニでのインターナショナル・スクールにおいて,講演した.このような誘導表現の手法は,グラスマン多様体やカイラル多様体上の量子論にも適用できるはずである.実際いずれの場合も,量子化の結果としてゲージ構造の誘発が認められる.特に,ゲージポテンシャルは前者においては一般に積分表示を用いて与えられ,また後者においては,適当なゲージのもとで,位置には依存しないかたちになることが示された.カイラル多様体上の量子論についてはオーストラリア・ホバートでの「群論の物理への応用に関する国際会議」で発表し,更にこれとグラスマン多様体上の量子論を含む総合的な検討の結果ついては,ブルガリア・ヴァルナで開催された微分幾何学関係の国際ワークショップに招待されて講演した.これらは次年度論文にまとめることを計画している. 他方,幾何学的な対称性のない歪んだ多様体上の量子論の検討も進行している.その結果D次元球面と同相な多様体上でのディラック代数の既約表現を完全に決定した.ただし演算子の自己共役性の証明は未完である.またわれわれの量子化を場の理論に適用したとき,どのような事態が生じるかについても目下研究が進められている.
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