研究概要 |
量子化は物理学における基本的概念の一つといえるが,その意味する内容は必ずしも明らかではない.とくに有界な多様体上に拘束された系については,正準量子化の手法を使うことはできない.そのためディラックは,拘束系に対する量子化法を開発したが,我々は数年前一般的な視点から一つの量子化法を提案し,それをD次元球面上の系に適用してゲージ構造の発現という興味ある事実を見いだした.これはコセット空間の接続の結果としても導かれることに着目し,この手法をさらにグラスマン多様体やカイラル多様体上に拘束された系にも適用して,その際誘発されるゲージポテンシャルの性質の分析を行なった.これはヴァルナでの国際会議で報告し,その詳細は同会議のプロシーディングス上に最近刊行された.ここれら一連の研究を通して我々は多様な成果を得たが,同時にこのアプローチの限界もまた明らかになってきた.一つは多様体が幾何学的な対称性をもたない場合への我々の量子化法の拡張であるが,これは不可能の結論に到着した.理由は,基本代数の基礎となる多様体上の2点を結ぶ移動の変換が積分可能でないことによる.ただ,われわれの量子化をディラックの量子化法に融合させるならば,例えばD次元球面と同相な歪んだ多様体上でディラックの量子化法に従う系の性質を吟味することができる.その結果,D=1では連続無限個のユニタリーな規約表現空間が許されるのに対しD≧2では規約表現の一意性を導き,それぞれの場合の基本演算子の形を完全に決定し得た.この成果は'99年夏のキエフでの国際会議で報告した.また我々の量子化の場の理論への適用はかねてからの念願であったが,理論の一部を犠牲にせぬ限りこれが不可能であることを示すことができた.この結果は'99年のイスタンブールの会議で報告した.その他にも以上の研究により明らかにされた点は多く,それらを今後の発展への素材としていきたい.
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