本研究では、内部に点状相互作用を含んだ1、2次元のビリヤード系の量子力学の数理的性質を詳細に調べ、この系にはその非常な単純さにもかかわらず幾つかの興味深い特異な性質が存する事を解明した。まず、これまでにも比較的良く調べられてきた二次元量子ビリヤード系における量子カオス的順位統計については、量子カオス出現の条件の簡潔な解析的表式を得ることが出来た。さらに一次元量子系における点状相互作用について、通常のデルタ函数とは異なる波動函数そのものに非連続性をもたらす「第二種の点状相互作用」というべきものが存在することが数学的には知られていたが、これをいかにして物理的に構成するか、そのような相互作用を持つ系がどのような性質を持つのかが不明であった。本研究によってそのような問題は大方解決する事ができた。さらには1次元における可能な点状相互作用が全体としてどのような数学的な構造をもつのかについても理解を進める事が出来た。具体的には(1)デルタ函数と異なる「第2種」の点状相互作用を局所オペレーターの零到達距離極限として実現する手法を編み出した。(2)通常のデルタ函数と第二種の接触力函数を組み合わせた一般化された点状相互作用を考え、これを離散スペクトルを持つ閉鎖粒子系に作用させた場合、そのエネルギースペクトルのパラメタ空間に特異性があらわれ、その周りのエネルギー平面が二重螺旋構造をとっていることを解析的に示した。(3)第二種の接触力が二粒子間の相互作用として働く系は一次元フェルミオン多体系の二体力の一般的な短距離極限として考えられることを指摘し、この一次元フェルミオン多体系がデルタ相互作用する同数の一次元ボソン多体系と双対(結合強度を逆転して同等)な関係にあることを示した。(4)一般化された1次元点状相互作用のこのような諸性質についてその起源の数理物理的な解明を試みた。その結果そこにはT^2×S^3多様体という「非自明な幾何学的構造体」が存在する事を明らかにした。
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