本研究では、境界積分法という手法を用いて、地球内部(主に地殻)の微細不均質性による高周波地震波の散乱・減衰を決定論的あるいは波動論的に定量的に解明することを目的としてきた。本年度は、まず深さごとに散乱体の分布や非弾性減衰が大きく異なる非定常ランダム媒質について考察した。Yomogida et al.(1998)で示されたように、散乱体が局在すると、これまで空間的に一様に観測されると思われていたコーダ波の振幅が震源の位置によって大きく異なる。この結果は、最近、広島大学の鶴我佳代子の博士論文(1998)によって兵庫県南部地震の余震のコーダ波振幅の分布の研究によっても認められ、このような比較を行なうことで、地殻内部の微細不均質性の分布の非一様性が具体的に議論できる可能性を、本研究では示した。さらに、そのような振幅の異常が現われる周波数帯域から、局在する不均質性の大きさも推定できる点が重要である。 本年度の後半では、理論的な側面から大きな成果が挙がった。これまでの計算では、基準となる媒質が無限一様か、半無限媒質という簡単な場合しか扱っていなかった。実際の地球内部は第一次近似としては深さ方向に構造が大きく変わるので、観測波形とより定量的に比較するには基準媒質そのものを深さ方向に変化する、すなわち水平成層構造とすることが望ましい。しかし、このような拡張は、単純にこれまでの境界積分法の定式化を用いると、計算量を格段に増やすことになって実用的でない。ここでは、散乱体が含まれる層については従来の手法を用いる一方、それ以外の部分については従来の平面波分解に基づく水平成層構造の波動伝播理論で表現するという折衷した定式化を導いた。これにより計算量を著しく増やすことなく波形が求まる見込みとなり、次年度は具体的な波形合成に入る予定である。
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