本研究では、境界積分法を用いて、地球内部(主に地殻)の微細不均質性による高周波地震波の散乱・減衰を決定論的あるいは波動論的に定量化することを目的とした。まず散乱体が局在するような非定常ランダム媒質について考察し、コーダ波の振幅が震源の位置によって大きく異なることがわかった。この結果を兵庫県南部地震の余震のコーダ波振幅に応用した所、1〜4Hzの低周波数領域でのみ、野島断層付近の深さ10kmあたりにコーダ振幅が系統的に大きくなる領域があることがわかり、この部分での不均質性の局在がわかった。さらに防災科学技術研究所のK-netのデータを用いて北海道南東部についても同様の解析を行った所、ここでも1〜2Hzの低周波領域で南西側の観測点のコーダが増幅され、よって1kmほどのスケールの不均質性が局在していることが示された。 理論的な側面では、これまでの基準となる媒質が無限一様か半無限媒質という簡単な場合の定式化を、基準媒質が深さ方向に変化する、すなわち水平成層構造中に散乱体が分布するモデルまで境界積分法の理論へと拡張することに成功し、これに基づいて波形合成の計算を行った。まだ2次元SH波の場合のみ確認したものの、不均質性からの散乱波は線震源で、水平境界面からの寄与は平面波分解という折衷した方法によれば、計算量も大幅に増やすことなく、十分な精度で波形が計算できる。得られた波形では、不均質性からの散乱波と水平境界面からの反射・透過波が認められる他に、両者の相互作用(特に不均質性が境界面に近い時)による波が認められた。例えば、コーダ状の波の継続時間が大きくなり、均質媒質中の散乱波とは明らかに異なった様相を示す。さらに、この定式化では不均質性を含む層の境界面がゆるやかに曲がっている場合でも、そのまま適応できる利点があることがわかった。
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