本研究では、亜熱帯・亜寒帯循環系の海洋水温躍層構造を数値的・理論的に調べることを目的とする。特に、今年度は、これまでの水温躍層理論では明確な解答が得られていなかった東岸近くでの構造とその水温躍層構造への影響を明らかにするための数値的研究を行った。モデル海洋は、赤道を南の境界とする60°×60°の領域で、水深は4000m、また、駆動力は、東西風応力と海面での加熱・冷却である。今年度分ったことの概要は以下の通りである。 1. 東岸近くでは、混合層より深い所では、等水温線は概ね水平であるが、北ほど深くなる混合層の底のでは、一度深くなってから混合層内の等水温線に繋がり、海面に露出する。 2. 東岸より1°離れた地点では、東西流は地衡流で良く近似でき、また、いくつかの感度実験を行い、水平拡散が小さい場合には、混合層上部での東向きの流れは、混合層下部の西向きの流れによって海洋内部に戻っていく。 3. 混合層内で東西流がキャンセルする場合の構造を理論的に求め、実験と比較し、良い一致を見た。これは、理想流体水温躍層理論の東岸での境界条件が正しく与えられる可能性を意味する。 4. この東岸近くの混合層下部からの西向きの流れは躍層内部へと高渦位の水として侵入し、亜熱帯循環南東域の流れ場に影響する。 5. 東岸近くの構造は、基本的に亜熱帯循環と亜寒帯循環で違いはなく、亜寒帯循環においても、東岸近くで、表層の水が海洋内部にventilateされる。また、亜寒帯循環南部の東岸からventilateされた水は、循環境界を横切り、亜熱帯循環に侵入する。すなわち、東岸近くの構造によりCross-gyre ventilationが起きる。
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