熱帯収束帯(ITCZ)を北半球へ偏在させているのは何なのかというは気候学の長年の謎である.この熱帯気候の南北非対称性を維持する大気海洋間の正のフィードバックは幾つか提示されているが、現実で温かい海としてなぜ南でなく北が選ばれるのか、そのメカニズムは分かっていない。本研究は、熱帯気候の南北非対称性を強制するものとして海陸分布に注目し、その効果を調べることを目的とした。そのために、大気大循環モデル(CCSR/NIES AGCM5.4)と海洋1.5層モデルから成る大気海洋結合ハイブリッドモデルを作成した。 理想化した海陸分布をモデルに与え、その非対称性がどのように広域に亘る大気海洋結合系に影響を及ぼすかに注目した。具体的には、南北対称な基準の海陸設定に、アフリカ大陸のような海洋東岸の北半球5N以北に大陸を付け加えた実験を行った。その結果、平均的に海面水温は北半球で高温、南半球で低温、またITCZは北半球に存在するという現実的な南北非対称分布を示した。これは北半球の張り出した陸面温度の方が南の海面水温より高く、大気下層で北の陸に向かい赤道上を南風が吹くことによる。この海洋東岸付近の南北非対称擾乱が大気海洋結合不安定波動を励起し、その西進により海洋の中央域にまで広がる東西に幅広い南北非対称気候を形成することがわかった。一方、海洋の西岸に張り出した大陸を付け加えた実験では海面水温や降水量の平均分布はほぼ南北対称であった。以上から、太平洋ITCZを北半球へ偏在させているのはアメリカ大陸で、ユーラシア大陸ではないということが示唆された。
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