研究概要 |
亜熱帯循環と熱帯循環との表層・中層水の交換過程を解明するために、次のとおり研究を実施した。 1.平成11年度に作成した,定線データ(130°E、137°E、144°E、155°E)に基づく格子化時系列データを解析し,北赤道海流域および北赤道反流域の海水分布・流速場の変動を調べた。その結果,とくに北太平洋回帰線水(NPTW)に顕著な10年スケール変動が存在することが明らかになった。変動の要因を分析し,形成域(回帰線沿いの日付変更線付近)における熱塩的な強制の変動だけでなく,風の場,すなわち力学的な強制の変動によるNPTWの形成率および循環の強さの変化が重要であることを示した。 2.平成11年度に実施した東京大学海洋研究所白鳳丸KH-99-1次研究航海で取得したCTD,ADCPデータ等を解析した。その結果,亜熱帯循環北東部に起源をもつ低塩分水が,北赤道海流によって西に移流され,西岸境界を経て,北赤道反流によって東に移流されることをスナップショットとしてとらえることができた。また,熱帯循環東部に起源をもつ中層の高塩分・低酸素水(北太平洋熱帯中層水,NPTIW)が,熱帯循環内を西向きに運ばれている様子をとらえた。NPTIWは,これと隣接して西向きに流れる低塩分水と主に等密度面上で混合し、流下方向に低塩分化・高酸素化する。同海域を異なる時期に観測したWOCE/WHPのデータとの比較から,NPTIWは,時間的変動が小さいこと,東向きに輸送される低塩分水は北赤道反流の変動にともない変化することが示唆された。 NPTWと低塩分水はともに亜熱帯循環から熱帯循環に流入し,それらの変動が熱帯域の表層水温・塩分の変動と関連している可能性が示唆された。今後は,熱帯域表層の変動と,その熱帯大気,さらに中緯度大気への影響を調査し,北太平洋における大気・海洋系の10年スケール変動のメカニズムを検討したい。
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