研究概要 |
本研究は,亜熱帯循環・熱帯循環境界域における主要水塊の流動・変質およびその時間変動,とくに海水特性偏差をもった亜熱帯循環起源水の熱帯循環への流入の解明をめざすものだった。i)気象庁・海上保安庁による西部太平洋域の定線観測資料,ii)西部熱帯北太平洋における独自の船舶集中観測資料,iii)それらを補完する既存資料(WOCE/WHPを含む)の解析を行い,以下のような新しい知見を得た。 1.(i),(iii)の資料を等密度面上で平均することにより,北赤道反流域の北緯5度,200〜300m,ポテンシャル密度26.5σ_θ付近を中心に,西岸境界を経由して熱帯域に流入した中緯度起源と考えられる低塩分水が存在することを示した。また,熱帯域東部に起源をもつ中層の高塩分・低酸素水(北太平洋熱帯中層水)が熱帯循環を西向きに運ばれ,隣接する亜熱帯循環の海水と活発に混合して,流下方向へ低塩分化・高酸素化することを示した。 2.(ii)のCTD,ADCPデータから,亜熟帯循環東部に起源をもつ低塩分水が,北赤道海流によって西に移流され,西岸境界を経て,北赤道反流によって東に運ばれることを支持するスナップショットを捉えることができた。また,1との比較から,北太平洋熱帯中層水は時間変動が小さいこと,東向きに移流される低塩分水は北赤道反流の変動に伴い変化することなどが示唆された。 3.(i)の資料から,亜熱帯循環中央部起源で北赤道海流に運ばれる北太平洋回帰線水に,顕著な10年スケール変動が存在することを明らかにした。変動の要因を分析し,形成域における熱塩的な強制の変動だけでなく,風の場,すなわち力学的な強制の変動による水塊形成率およぴ循環の強さの変化が重要であること示した。
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