研究概要 |
GAME(アジアモンスーン水循環観測研究計画)の特別強化観測年でもあり,長江流域大洪水の起きた1998年春から夏,中国淮河流域で大洪水のあった1991年7月前半の事例,梅雨との比較のための秋雨期の前線帯での水循環の特徴と年による違い(1993,94,95年の比較),等に関する解析を行い,主に次の結果を得た。なお,これらの中間報告の一部は,1999年6月の北京でのGAME国際研究集会においても発表される予定である。 1. 1998年夏には,5月17日頃のインドシナモンスーン開始に伴って,南シナ海北部〜華南の梅雨前線帯での対流活動の強化は明瞭に見られたものの,6月10日頃のインドモンスーン開始後も,モンスーン西風の南シナ海以東へ侵入は持続しなかった。これが,夏を通じた長江〜日本列島域での前線帯の停滞をもたらした重要な要因の1つである可能性がある。また,淮河流域に梅雨前線帯が停滞した6月29日〜7月3日頃のマルチスケールのメソ降水系と前線帯スケールでの大雨の維持に関して,四川盆地から東進した南西渦など,興味深い幾つかの事例の予備解析を行った。 2. 中国淮河流域における1991年7月前半の梅雨前線帯スケールでの大雨域の持続は,南から前線帯への多量の水蒸気を効率的に捉えたためと考えられるが,降水帯付近における下層の「低温域」と,対流系も含むメソα低気圧とのマルチスケール相互作用の役割の重要性が,事例解析により明らかになった。 3. 梅雨期と違って秋雨期には,大陸からの寒気の南下と熱帯西太平洋域の対流活動域の東西の偏りの年による違いも大きい。そのため,前線帯の季節的な南下とその年々の違いの他に,熱帯の対流活動に起因する亜熱帯高気圧の下層風構造の東西変化に伴い,前線帯での雲・降水活動の東西方向の偏りも年によって大きく異なり得ることが分かった。
|