研究概要 |
本年度の主な研究成果は次の通りである(1.については平成11年11月に中国西安にて成果発表した)。 1.1998年には,長江流域の大洪水後の6月29日頃から梅雨前線帯が中国淮河流域へ北上・停滞した。このイベントに関連して,四川盆地の「南西渦」からのシアラインが東への拡張に伴う下層南風強化による対流不安定の強化がみられ,それにより梅雨前線帯での降水が活発化して組織化された。まさにこのために,淮河流域でメソα低気圧が新たに発生・成長し,その後の前線帯での降水のマルチスケール相互作用過程に大きく影響した点が明らかになった。このような過程でのメソα低気圧の「初期擾乱」の形成は,本研究で扱った1991年の事例においても見られた。また,前線帯の位置や活動の季節進行には,アジアモンスーンスケールでの場の変化が必要な事は言うまでもないが,より大きな場の要因で活発化された降水活動がメソα低気圧を形成する過程も,日単位でみた季節変化・季節内変動の遷移タイミングには重要な意味を持ちうる点を示唆している。 2.熱帯西太平洋域は海面水温の特に高い領域が,気候学的には9月頃に最も東方まで広がっているため,何かのきっかけでどこでも対流が起きてもおかしくない。従って,夏の熱帯の対流活動のアノマリーの履歴によって,9月の対流活動域の東西の偏りは大変大きくなりやすく,このことも,秋雨前線帯の活動の東西方向の偏りが年々の大きな違いを生み出す背景である事が明らかになった。 3.1993年7月後半〜8月中旬にかけて,台風が〜130Eに沿って北上する一方,その他の期間は梅雨前線の強化・停滞が続き,西日本を中心に降水量が大変多くなった。7月後半になると,対流活動域が15N付近を145Eから120Eへ向けてまとまりながら西進し(〜130Eで最も強まる),その北東方に亜熱帯高気圧セルが強化されるというサイクルが約15日間隔で繰り返された。このサイクルの中での台風の発達と〜130Eで日本に向かう下層南風の維持が,台風の速やかな北上と梅雨前線帯への水蒸気輸送の持続をもたらし,本来は梅雨明け後に来襲の多くなる台風の通過も含めた,西日本での異常降水の原因であった事がわかった。 また1993年は,春からの弱いエルニーニョの影響で150E以東の赤道海域に対流活動が偏り,西太平洋域では抑制されていた。それは逆に〜15N/120-140EでのSSTの上昇をもたらし,対流活動の爆発を7月後半になってそこで引き起こした,アノマラスな季節経過過程の影響も明らかになった。
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