研究概要 |
1.1991年,1998年梅雨の淮河流域で形成されたメソα低気圧に関して,梅雨降水帯の活発化とその中でのメソαスケールへの降水系の組織化の後メソα低気圧が明瞭になった事例について,そのinitiationに関する解析を行った。initiationに関わる梅雨降水帯の活発化は,単に亜熱帯高気圧域の下層南風のみでなく,中国乾燥地域付近から東へ伸びてくる下層の総観規模低気圧(恐らく,熱的低気圧)南東縁の南西風との合体に伴って,より北方まで水蒸気が侵入しうる状態になるなど,乾燥地域の役割も小さくないことが明らかになった。 2.1998年梅雨期における長江流域での前線帯スケールでの大雨とアジアモンスーンのアノマラスな振る舞いとの関係について解析した。この事例は,梅雨期の中でも大きな水蒸気フラックスの南からの流入が持続した点が特徴である。しかし,前線帯南方の亜熱帯高気圧自体が定常的な様相を示していた訳ではなく,気圧システム自体はゆっくりと遷移しながらも,そこでの東西の気圧傾度は維持され,水蒸気輸送を担う下層南風も持続した。この現象は,ラニーニャへと転じたにも関わらず熱帯西太平洋域での対流活動の分布が真夏のパターンとなり切れなかった点に関連していた。 3.東アジアの亜熱帯前線帯付近の水収支過程について,1993,1994,1995年を例に3月〜7月を通して解析を行った。梅雨最盛期には,梅雨前線帯へ吹き込む強い南風は前線帯南側の熱帯気団内の現象であるが,東南アジアモンスーンが開始する前の時期(例えば3〜4月)には,中緯度の傾圧帯の中での現象であり,北向き水蒸気輸送に関連した風系の成因の季節的な違いが例示された。 4.地球規模の大気環境の変動に対する東アジア前線帯の応答過程の理解を深めるために,1997/98年エルニーニョ時の顕著な暖冬への移行過程を,比較的冬らしい冬であった1995/96年と比較解析した。1997年には,11月初め頃に顕著な暖冬傾向へ変化した。これは,PNAパターンと共にWPパターンもエルニーニョに伴って顕著に現れたため,本来11月頃に顕著にみられる日本の北方の前線帯の急速な南下を妨げ,そこで日本南岸以南まで寒冷前線の南下をもたらすような低気圧発達が抑制されたことによる影響が大きかったことが分かった。
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