本年度は、約40cmの堆積物柱状試料の採泥器を自作し、さらに、この採泥器と、初年に開発した約1mまでの柱状試料を採取する方法で取った堆積物柱状試料について、表層から連続的に乱れのない、試科を採取できる器具を自作した。そして、広島県西条盆地の11カ所のため池について、走磁性バクテリアの有無を調ベ、うち、厚い堆積物が確認できた6カ所から、これらの器具で、堆積物柱状試科を採取した。これらの堆積物について岩石磁気学的性質、なかでも、古地磁気学で重要な、堆積残留磁化獲得の堆積物による違いを、「凍結法」という新しく開発した方法で調ベた。「凍結法」では、磁場の下、同層順の2つの堆積物試料を互いに反平行の方位で置き、急速に凍結し残留磁化を測定することによって、固定されていない磁性鉱物粒子の寄与と、すでに固定されている磁性粒子の寄与を分離できる。ため池堆積物について、それらの寄与の深さに伴う変化を調べたところ、堆積物表層で既に、4割から7割程度の残留磁化が固定されていた。また、表層から10〜20cmの深さの範囲では、固定成分の変動は、含水率の変動と概ね負の相関を示した。それより深い部分では、固定成分が、安定な単磁区粒子から超常磁性粒子にかけての微小粒径の磁性鉱物量の指標となる帯磁率周波数依存係数と負の相関を示す柱状試料があった。堆積環境の違いが、含水率や微小粒径の磁性鉱物量を通して堆積物に反映され、それによって、固定成分の割合が単調に減少せず、深さによっては、一部の残留磁化獲得時期が前後する可能性が示された。現在までのところ、走磁性バクテリアの有無によって残留磁化獲得の仕方の違いに明瞭な差は観測できていないが、今後磁性鉱物に照準を合わせその差を明らかにすると共に、海底堆積物などに於いても、このような一部の堆積残留磁化獲得時期が前後する可能性があるのか調べていきたい。
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