シークウェンス層序学の基礎に関わる理論的枠組み-海岸線自動後退理論(Theory of shoreline Autoretreat)--を検証するための水路実験を実行した。実験には長崎大学環境科学部の堆積実験装置マルジ2号(平成10年度設置)を用い、堆積盆の動的条件(水位上昇速度、堆積物供給速度)を一定に保ったままで2次元デルタ及び3次元デルタの生成を試みた。実験から得られた知見は以下のように要約できる。 1.堆積盆の動的条件が時間的に不変の堆積系であっても、(1)デルタの海岸線は海側への比較的短期間の前進を経たのち陸側への後退に必然的に転じ、さらに、(2)自動後退段階(autoretreat phase)にあるデルタはその平面形態と堆積過程が急変する瞬間(自動変換点point)をやはり必然的に迎えた。このことによって、海岸線自動後退理論の確からしさは実証されたと言える。 2.自動変換点に到達した後のデルタは、その水中斜面上に階段状の段丘が発達することで特徴づけられる。段丘面上のあらゆる部位は時間面と交差して形成される。水中段丘の成因は、堆積物を供給する流れ(河川)のオートサイクリックな堆積プロセスが、海岸線自動後退の原理と並行して作用することである。従来、旧期デルタ平原の水中段丘化は海水準の上昇期と停滞期が交互に繰り返したためであるとする理解が受け入れられていたが(例えばミシシッピデルタ)、本実験結果はそのような理解の仕方を否定する。堆積盆の動的条件が不変であっても、そのような地形は必然的に生ずるのである。 3.多くのシークウェンス層序モデルは、堆積系内における地層累重様式の変遷は堆積盆の動的条件が時間的に変化したためであると説明する。そのような考え方は本研究によって覆えされた。
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