研究概要 |
本研究の主な目的は,世界的な海成第四系の模式地とされる房総半島と,同じく世界的な模式地であるニュージーランドのワンガヌイ地方について,段丘や海成更新統の層序にもとづく高精度の対比を行い,さらに海底堆積物から得られる酸素同位体比曲線との比較により,グローバルに標準となる第四紀の海水準変動曲線を作成することである.明らかにされた点は; (1)房総半島の上総層群と下総層群の境界層準については,研究者毎に諸見解があり統一されていなかった.現地調査によれば,従来本報告者も認めていた市宿層基底の"東京湾不整合"の名で呼ばれる不整合は存在せず,千葉市内のボーリング資料から得た不整合は市宿層を切る長浜層基底の長浜不整合であること,この不整合は上総層群の分布を大きく削剥し,低海水準期に形成されたと同時に南関東地域が構造的に隆起を始める新たな時代を画するものであること,従って下総層群基底を長浜不整合に変更する必要が生じたこと,また下総層群基底ともされる地蔵堂層や金剛地層基底には,非整合境界は存在するものの単に寒冷期の海水準低下を示すもので,長浜不整合ほどの構造的な意味はないこと,などが明らかとなった. (2)下総層群と海底堆積物の酸素同位体比ステージとの対比は,かつて本報告者によってもなされたが,他の研究者による最近のテフラ研究による各累層の年代を考慮すると,長浜不整合期がStage 16に相当することが明確になってきた.一方,ワンガヌイ地域の海成更新統に関するB.Pillansらの近年の研究によれば,Stage17のUpper Kai-Iwi Siltstoneを不整合に覆うStage 15のSeafield Sandは基底に厚い礫層を伴い,大きな海進期が推定されていることが明らかになっている.この事実は房総半島における層序と比較し,本報告者がかつて主張したグローバルな海水準低下とその後の海水準上昇を表し,興味深い.
|