本年度は、赤道太平洋地域の865地点から得られた約71の試料中を用いて、浮遊性有孔虫化石の群集組成を解析した。その結果は以下の通りである。1)このコアから産出する浮遊性有孔虫化石群集はP3〜Pl3に及び、その地質時代は中期暁新世から中期始新世(60〜40Ma)を示す。すなわち、このコアは約2000万年の地質記録をもっていることになる。2)浮遊性有孔虫化石の群集構成に関しては、暁新世や前期始新世の群集はMorozovella属を主体とし、次いでAcrinina属が多く、Subbotina属やGlobononialina属の産出は少ない。これに対して、中期始新世になると、Morozovella属やTruncorotaloides属が主体となるが、同様にsubbotina属は少ない。これらの群集は、典型的な熱帯地域を示すと考えられる。3)このコアの暁新世/始新世の境界付近には、新生代で最も顕著な温暖化(LPTM;the late Paleocene maximumとよばれる)が記録されている。この層準には顕著な炭素同位体比の負のスパイクと底生有孔虫の絶滅があることが観察されている。浮遊性有孔虫に関しては、炭素同位体比のスパイクの下で絶滅する種群は5種、11種が境界を越えて生存している。この時期の浮遊性有孔虫に関しては、25万年の間に1〜2種の絶滅がみられるのが普通なので、このスパイクの直下ではやや多く絶滅が生じていることになる。この絶滅は同時に生じているのではなく、約50万年の間に生じている.また、炭素同位体比のスパイクが記録されている層準では"Excursion Taxa"とよばれる2種が消滅するが、これは顕著な絶滅であるとはいえない。4)以上のことから、炭素同位体のスパイクの間にみられる温暖化は浮遊性生物には大きな影響を与えていないことが示唆される。しかしながら、スパイクの下位で絶滅した種群は、いずれも共生藻類をもたないグループであることを考えると、温暖化の影響がこれらの種群にも及んでいることがわかる。
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