高圧型変成帯の形成過程を解明するために、三波川変成岩類、ニュージーランドのハーストシスト帯について研究を行い、特徴の大きく異なる北米フランシスカン帯、北海道神居古潭帯との比較を行った。三波皮変成帯では、卓越する東西性のストレッチング・リニエーシィンの時期について岩石学的解析を行い、伸張変形が最高温度期に最大になり、以降急激な上昇が起こったことを明らかにした。ニュージーランド・ハーストシスト帯では、変成作用の性質について調べた。ハウエア湖周辺の変成岩類は、南半部の縁泥石帯と北半部のザクロ石帯に分けることができた。縁泥石帯では斜長石組成が曹長石であるが、サクロ石帯で灰曹長石が出現する。それに対応して緑簾石の量比が著しく減少し、緑簾石の分解が灰曹長石の出現に関与していることが明らかになった。従来、緑泥石帯とザクロ石帯の間に黒雲母帯があるとされてきたが、黒雲母帯は区別することができなかった。このことは、ニュージーランドの圧力条件がスコティッシュ・ハイランドより高く、P-T図上でガーネットと黒雲母の生成曲線の交点近傍に位置することを示唆している。 高圧型変成帯には蛇紋岩メランジュを伴うものと伴わないものとがあるが、変成作用当時の応力場の性質の違いを反映した結果である可能性が高い。フランシスカン帯や神居古潭帯は蛇紋岩が多量に含まれており、異種岩塊を含む蛇紋岩メランジュの発達も著しい。一方、三波川帯には蛇紋岩が少なく、蛇紋岩メランジュは認められない。蛇紋岩メランジュが付加体内での蛇紋岩ダイアピルの有無を示しているとすると、変成帯が蛇紋岩メランジュをもつことは、変成作用が進行していた当時に、前弧域が展張応力場にあったことを示している可能性がある。三波川帯は変成作用時に圧縮応力場にあったために、蛇紋岩メランジュをもつことがなく、蛇紋岩に乏しいのかも知れない。蛇紋岩ダイピルが発生し得ないような圧縮場では、付加体内へのマントル物質の取り込みは、上述の上盤マントルの削り込みのみ可能であり、四国や紀伊半島の三波川帯の蛇紋岩の産出が高変成度の泥質片岩中に限られることは、この仮説を支持している。
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