中央海嶺熱水系の熱水循環の深さと物質移動を知るために、その陸上のアナログであるオマーン・サマイル・オフィオライトの海洋底からモホまでの連続試料の酸素同位体比、イオウ濃度、イオウ同位体比の測定を行った。オフィオライトのユニットごとに見ると、枕状溶岩のユニットは200℃以下の低温の熱水が大きな水-岩石比で最終的に循環したことが酸素同位体比から推察される。シート状岩脈部では水-岩石比を1と仮定すると最も高温の斑レイ岩相との境界部付近では350℃を越える温度で熱水が循環していたことが推定される。変質した斑レイ岩は変質温度を500℃と仮定すると、水-岩石比が0.nで熱水と反応していたことが推測される。なお、全岩の酸素同位体比は全岩のストロンチウム同位体比や岩石の含水量と正の相関を示す。このことは、酸素同位体比が岩石の変質の程度を良く表す指標であることを示す。イオウ濃度は酸素同位体比やストロンチウム同位体比と相関を示さない。枕状溶岩のユニットではイオウの溶脱が激しく起きたため、イオウ濃度が低下している。シート状岩脈部の試料では溶脱のためにイオウ濃度が低下しているものと、もともとの火成岩起源のイオウ濃度より高濃度になっているものが存在する。イオウ同位体比の測定結果から、高濃度のイオウを含む変質岩石は熱水からの硫化物の沈殿によりイオウが高濃度になっていることが明らかになった。斑レイ岩中では、未変質な試料は、イオウ濃度、イオウ同位体比の両者が火成岩起源のイオウの値に近い。このことは斑レイ岩ユニットの下部までは、イオウの溶脱が起きていないことを示す。シート状岩脈部の平均のイオウ濃度と火成岩中の平均的なイオウ含有量を用い、熱水対流セルの大きさを仮定して溶脱したイオウの全量を見積もると、現在陸上で採掘されている火山性塊状硫化物鉱床を作るのに十分な量のイオウが溶脱されていることが明らかになった。
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