昨年度検討した分析方法をK/T境界堆積岩に適用し、マレイミド類、カルバゾール類と脂環式炭化水素の分析を行った。メチルアルキルマレイミドとフタルイミドを、数〜十数nmol/g、カルバゾール、ベンジルカルバゾールとそれらのアルキル誘導体を数十〜数百pmol/g、n-アルキルシクロペンタン、n-アルキルシクロヘキサン、アダマンタン、ジアダマンタンやデカリンを数〜数百pmol/g検出した。高熱環境で生成すると考えられたアダマンタンやジアダマンタンが検出された。 白亜紀層、第三紀層と境界粘土層に分けて、これまでに定量した有機物の濃度を比較すると、大きく2つのパターンに分けられた。1つは、白亜紀層が多く、第三紀層がその約2/3で、それぞれの層内ではほぼ一定であり、境界粘土層の下部2/3で非常に低く、境界粘土層の上部1/3で第三紀層の水準まで緩やかに回復するパターンである。これには、n-アルカン、ステラン、ホパン、脂環式炭化水素、脂肪酸、マレイミド類、カルバゾール類が含まれる。これらは、生物体に含まれていたときの骨格構造を比較的良く保持している化合物群であり、当時のバイオマスの変化を反映しているものと考えられた。もう1つは、全深度を通じてほぼ一定値を示した。これには、n-アルカンなどのCPI値、芳香族炭化水素濃度、アルキルPAHsの位置異性体比、ステラン・ホパンのS/R比などが含まれ、全深度を通じて熱続成作用はほぼ一定であったことがわかった。 K/T境界とP/T境界堆積岩について比べると、ともに大規模森林火災などを高熱環境を示唆するPAHs濃度比が高い値を示している試料が見られた。特に、これまで超無酸素事変が起きたとされるP/T境界堆積岩で、K/T境界堆積岩よりも強い高熱環境があったことを示した。
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