琵琶湖の溶存有機物に関して、三次元蛍光測定(励起-蛍光マトリックス、EEM)を応用し、化学的組成の推定や外来性・自生性の区別が可能になるか検討した。タンジェンシャルフロー型限外ろ過によって、、琵琶湖北湖の表層水(水深2.5m)、深層水(70m)と、外来性有機物を代表するものとして琵琶湖集水域の桐生にある渓流水を処理し、そのEEMを測定した。その結果、タンパク質特有の蛍光ピークは、琵琶湖の表層水、深層水ともに見いだされ、0.1μm以上のサイズに主に濃縮されることがわかった。これに対し、桐生渓流水にはタンパク質様の蛍光はほとんど見られなかった。腐植様の蛍光は、全ての試料のGF/Fろ液に見いだされたが、2つの蛍光ピークから構成されていること、分子量5000ダルトンのカットオフメンブレンで一部分画されることから、異なる物質であることが示唆された。この二つの蛍光ピークのうち一つは、桐生渓流水には強く見られるものの、琵琶湖湖水では弱い傾向があった。このことは、腐植様物質の中に、河川流下時あるいは琵琶湖内において分解ないし変性(光学的に)する成分と、比較的安定に存在する成分のあることが示唆された。琵琶湖表層水の溶存有機炭素(DOC)濃度の季節変動とタンパク質様蛍光強度の変化の間には有意な正の相関があった。これに対し、腐植様蛍光強度はDOCの濃度変化とは相関がなかった。タンパク質様蛍光は、琵琶湖における自生性の物質を、腐植様蛍光は、陸上・河川起源の物質を示すものと考えられる。 このような蛍光特性は、栄養度、湖水の滞留時間、集水域環境が異なるバイカル湖の湖水においてもほとんど同様の結果が得られたことから、陸水環境一般に適用できるものと期待できる。今後、化学組成・同位体組成も含め、溶存有機物の起源・動態をより詳しく解析する必要がある。
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