研究概要 |
遠州灘沖の外洋域(34.0゚N,138.7°E)においてTh-234分布と生物生産に関る各種パラメータの測定を行った。当海域は銭洲と呼ばれる好漁場として知られ、海底面が周辺より浅く生物生産が高まっている場所と予想される。東西方向に断面観測を行った結果次の知見を得た。1.物理環境場について、(1)成層構造が発達し、混合層は約10mであった。(2)最東端の測点は顕著な塩分極小が見られ、TSダイアグラムから判断して0-40m層は他とは異なる氷塊構造を形成し、陸水の影響が考えられた。2.生物環境場について、(1)透視度は40m以浅で大きく変化し浅いほど低い傾向にあり、表層において陸及び生物起源粒子が多いことが考えられた。しかし、(2)Th-234を測定した測点は亜表層に極小を示す特異的分布であり、この10-30m層の透視度極小は蛍光光度の極大と一致した。相互に鏡像構造をなしている点から、明らかに植物プランクトンの生物生産が高まっていたことが示唆された。3.化学環境場について、(1)栄養塩(硝酸、リン酸、ケイ酸)の分布は、最も浅い測点(水深73m)とTh-234を測定したその東側の測点(水深653m)で等値線の上昇が認められ、地形効果による流れ場の擾乱あるいは湧昇を示唆していた。(2)全Thは、100m以深でほぼウランと放射平衡にあったが、特に40m以浅で顕著な不足量が認められた。(3)粒子態Thは40m以浅で高濃度であり、逆に溶存態Thは低濃度を示した。(4)定常状態を仮定した箱モデルから見積もったThのこの海域の平均滞留時間は、有光層0-30m水柱で77日と計算された。これらの結果から地形効果による物理的な海水の擾乱を起因として、深層栄養塩が光環境場に持ち込まれることにより生物生産が高められそれに連動して有光層においてTh-234の除去が活発に行われていると判断された。
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