研究概要 |
四国海盆中央の貧栄養海域の同一点(29°30'N,135°15'E、潮岬南方400km)において、今年度2回の海洋観測を異なる季節に実施してTh-234分布と生物生産に関る各種パラメータの測定を行った。一回目は三重大学練習船勢水丸(4/13-4/20、8日間)による春季観測、二回目は東大海洋研究所淡青丸(12/5-12/12、7日間)による冬季観測を実施した。冬季観測では荒天のため一次生産速度の観測が欠測となってしまったが、特にTh-234分布に関しては興味深い知見が得られた。従来、この附近で得られたTh-234濃度は親核種のウラン濃度とほぼ一致し、放射平衡に達していた場合がほとんどであった。しかもそれらは年間で比較的生物生産が高いであろう夏季においての結果であった。今回測定を試みた冬季は、貧栄養である外洋域であることに加えてさらに季節的に生物生産が低いであろうと予想されたが、実際の測定結果は明らかにTh-234分布のウランに対する非平衡が存在していることを示した。深層の200mにおいてほぼウランと平衡値にあったが、0-25m層及び75m層では明確な非平衡が見つけられた。200m水柱におけるTh-234の存在量は、ウランのそれに対して約85%であり、約15%のThが不足していた。またThのこの海域の平均滞留時間は、0-25m水柱で129日と計算された。除去過程のメカニズムに関しては、粒子態Thと全Thの分布が類似しており、粒子態のものが除去されることにより全体の濃度が減る様な傾向が見て取れる。溶存態のものが直接水柱から一気に除かれるのではなく、粒子態へ移行してから除去されていくメカニズムが働いていると考えられる。今回の結果は、外洋の貧栄養海域の生産を評価する際には冬季も十分に考慮しなければならない可能性があることを示唆した。
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