四国海盆中緯度の一定点において繰り返し行った観測結果は、成層期に海水中の^<234>Thが概ねウランと放射平衡にあることを示した、これはこの亜熱帯海域が粒子フラックスがあまり大きくない貧栄養海域であることを物語っている。一方で1999年12月の冬季観測において、少なくない^<234>Thの非平衡が見つかった、これは新しい知見である。これらの観測を通して、亜表層クロロフィルa極大層には常に^<234>Thの非平衡が僅かとは言え存在していた。即ち、明らかに生物生産と連動した物質鉛直輸送が駆動しているものと判断された。この層には^<234>Thの不足が見つかるという観点からは、有光層下部においてはある程度持続的な生物生産活動が存在していることが示唆される。夏季の栄養塩が枯渇した有光層においては、その底層部へ僅かながらも恒常的に深層からの栄養塩が運び込まれることにより生物生産が駆動すると言う亜熱帯海域特有の生産構造を反映したものと推察された。しかしながら、一連の観測結果は^<234>Th非平衡量と水柱積算クロロフィルa量の間に必ずしもよい相関を示していない。0-200m積算クロロフィルa量は、12月、6月、9月の3航海で比較した場合、最もクロロフィルa量が高い6月の^<234>Th非平衡量は小さかったし、また、最も^<234>Th非平衡量が大きかった12月の積算クロロフィルa量は6月の約半分でしかなかった。ところが、12月の場合は表面から亜表層極大に渡って鉛直的に広い範囲でクロロフィルaが分布しており、^<234>Th非平衡も鉛直方向に広く存在していた。この分布パターンは、亜表層のみに顕著なピークを持つ夏季のものとは大きく異なっており、この海域の冬季の物理的な海洋構造に起因する生物生産構造の違いが大きく影響していることがわかった。夏季のワンショット観測では、貧栄養海域の年間生産量を見誤る可能性が示唆された。
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