研究概要 |
月表層物質はその形成以来,長期にわたる宇宙線との相互作用により検出可能な程度の宇宙線生成核種を含んでいる。宇宙線の照射を受けた惑星物質内では,その相互作用の一つとして二次的に中性子が発生することが知られている。惑星物質を構成している数多くの元素の中で,いくつかの希土類元素の同位体は原子核中に中性子を捕獲する中性子捕獲反応を受けやすく,それらは中性子を鋭敏に捕獲した後にその安定同位体の存在度を変えうると考えられる。本研究では,宇宙線照射の影響で月表土内部に起こっている中性子捕獲反応をSmとGdを中心としたいくつかの希土類元素の安定同位体存在度の変動からとらえることを試みた。測定には国立科学博物館理工学部に設置されているVG54-30熱イオン化型質量分析計を用いた。 実試料の測定に先駆け,いくつかの市販化学試薬の希土類元素について精密同位体比測定を行い,Sm,Gdの同位体組成を繰り返し相対誤差0.001〜0.01%の範囲内で精密に分析することにより,それらの同位体組成変動から理論的に1×10^<14>n/cm^2の中性子束を検出できることを明らかにした。次に,米国宇宙航空局(NASA)から配分された2つのサイトA-12,A-15で採取された9種類の月表土試料のSm,Gd同位体比測定をおこなった。A-12からは(1.77〜2.17)×10^<16>n/cm^2,A-15からは(3.02〜4.68)×10^<16>n/cm^2に相当する中性子フルエンスが見積もられた。さらに,中性子フルエンス量およびそのエネルギーは表面からの深さ依存性があることも確認された。
|