研究概要 |
本研究では,宇宙線と地球外物質との相互作用を同位体化学的見地からとらえるために,中性子捕獲反応によって同位体組成に変動をおよぼすSmおよびGdの二つの元素に着目し,地球外物質のSm,Gd同位体測定を行った。米国宇宙航空局(NASA)が1970年代に行ったアポロ計画によって採取された月試料は試料採取場所に関する詳細な記載があることから地球外物質の宇宙線照射を研究するうえでの比較試料になり得ると考え,まず,月表土のコア試料の分析を行った。NASAから配分された2つのサイトA-12,A-15で採取された9種類の月表土試料のSm,Gd同位体比測定によりA-12からは(1.77〜2.17)×10^<16>n/cm^2,A-15からは(3.02〜4.68)×10^<16>n/cm^2に相当する中性子フルエンスが見積もられた。さらに,中性子フルエンス量およびそのエネルギーは表面からの深さ依存性があることも本研究結果から明らかにされた(Hidaka et al.,印刷中)。 次いでいろいろな種類の隕石について同位体比分析を行った結果,特に宇宙環境中で還元的雰囲気におかれていたと考えられているエンスタタイトエコンドライト(オーブライト)は非常に高い中性子束をもつことがわかった。5つの異なるオーブライトから見積もられた中性子束は(1.17〜3.99)×10^<16>n/cm^2であり,これらが全て同一母天体に起源をもつものと仮定すると,SmとGdの同位体変動の組み合わせ(ε_<Sm>/ε_<Gd>)から各オーブライト種が母天体で位置していた深さ方向の推定ができることを見いだした(Hidaka et al.,1999)。また,普通コンドライト隕石についてはほぼ宇宙線が照射された年代に比例した中性子束(0.10〜0.52)×10^<16>n/cm^2が見積もられ,貴ガス同位体のデータと比較することにより個々のコンドライト隕石の母天体以降の天体としての大きさを推定することができた(Hidaka et al.,投稿中)。
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