1.岩石、鉱物の酸による化学風化過程 : 地質調査所製岩石標準試料の玄武岩(JB-la)、長石(JF-1)、はんれい岩(JGb-1)、ダナイト(JP-1)及び関連鉱物の長石(K-、Na-、Ca-)とかんらん石(Mg-、Fe-)粉末の10mM硝酸による元素の溶出とX線光電子分光法(XPS)で測定される粒子表面組織の変化を調べた。岩石、鉱物ともに一般に溶出に伴ってSi濃度が相対的に高くなった表面層が形成され、岩石からの溶出挙動は基本的には構成鉱物の特徴によって理解できた。Fe-かんらん石ではXPSのSi2_s、O1_sスペクトルの変化から、表面にシリカ(SiO_2)層の形成が示されたが、他鉱物、岩石の場合は、シリカ層の形成は必ずしも明瞭ではなく、表面Siの状態が鉱物によって異なる可能性も示唆された。 2.湖沼堆積物の表面化学組成 : 中性湖沼である摩周湖の堆積物粒子のXPSにより分析したAl/Si比はコア試料中でほぼ一定で1に近いのに対し、酸性河川水の導入、流入のあった田沢湖、屈斜路湖では特徴ある変化を示した。田沢湖コア試料では酸性水の導入開始時期に対応する深さから、この比に顕著な増加が見られ、屈斜路湖では試料採取位置によって比が大きく変化した。選択的抽出法による分析結果から、このAl/Si比は堆積物の可抽出態Al濃度に相関しており、堆積物粒子表面層のAl濃度が湖水中のAlの挙動を密接に反映していることが示された。 3.茶園地帯の酸性化水・土壌環境の元素動態 : 茶園土壌の窒素施肥による酸性化に関連して、3施肥区と自然植生下(対照区)の土壌層の元素組成、粒子表面化学組成を比較した。茶園土壌のpHはCa多肥区でも対照区より低く、元素の分布は酸性化の効果と施肥による供給の2つの面から理解できることが示唆された。例えばNi、Mn、Coなどの塩基性岩由来元素は対照区で高く、Kは平均組成には大きな違いはないが、対照区の粒子表面濃度は施肥区にくらべて顕著に低かった。
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