研究概要 |
有機物解析による古環境を明らかにする際に,重要な課題は有機物が保存されていると仮定している。したがって,還元環境にある湖底堆積物は解析試料として適している。これまでに,得られた試料を使って分析すると,有機物キャラクテリゼションからはこの有機物が陸起源でないことの解釈が得られた。すなわち,中国太湖から採取した堆積物中のフェノール酸分析によって,通常,陸起源の場合検出されるリグニン関連フェノール酸が検出され無かった。しかし,代わりに,2種の芳香族酸(安息香酸,フェニ酢酸)および4種のメトキシ芳香族酸(4-メトキシ安息香酸,3,4-ジメトキシ安息香酸,4-メトキシフェニル酢酸,3,4-ジメトキシフェニル酢酸)が検出された。このことは,これらの酸が陸にない起源物質に起因するか,リグニン関連フェノール酸が堆積過程で変遷したことによると考えられる。そこで,堆積物柱状物の有機物層の前後3セグメント試料の有機物の炭素安定同位体を測定したところ,有機物層のδ^<14>C=-28であり,太湖の近郊で現在陸地である土壌の柱状物試料の有機物層の値(δ^<14>C=-27)と類似の値を得た。すなわち,炭素安定同位体の情報から,太湖湖底堆積物の有機物は陸起源であると推定された。従って,太湖の湖底堆積物で同定された芳香族酸関連化合物は陸起源リグニン関連化合物の堆積過程で変遷したものと推定される。しかし,湖底堆積物でこれまでに観測された安定同位体比を持つ陸起源でない有機物の存在も否定できない。 次年,最終年度はこれまでに使用された分析試料を含めて,解析するに適当と判断された三柱状試料の各セクションの約50サンプルの安定同位体比を測定し,これまでの測定結果と合わせ試料の解釈と考察を行う。
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