研究概要 |
本研究に供した太湖南東部から採取した試料(TA-93-2)は, 約180cm長の柱状堆積物で, 深度144-147cm部に有機物層が観察された。放射性炭素(C-14)測定の結果, 約6500年前の堆積物であることが示された。柱状堆積物中の有機物層の存在は, この年代を前後して起こった環境変動を示唆するものである。まず, この試料の有機物分析の目的で, あらかじめ, 生体構成の酸性画分(A)と中性画分(N)に分画した。これまでの画分Aの分析結果からフェノール酸成分の芳香族酸が検出された。この芳香族酸が陸起源のフェノール酸の続成作用で生成したものか, 湖の自生生物体構成成分であるか明らかにするのが本研究の課題である。)測定の結果、約6500 フェノール酸類に比較して堆積環境で続成変化を受け難い炭化水素類の特定バイオマーカーを用いるために, N画分(炭化水素画分)を分析対象として選んだ。水環境藻類起源の低炭素数炭化水素含量(n-C_<15>+n-C_<17>+n-C_<19>)と陸環境高等植物起源の高炭素数炭化水素含量(n-C_<27>+n-C_<29>+n-C_<31>)の特定炭化水素含量比の測定により, 陸起源又は湖中自生性起源かの優先性を推定できる。柱状試料T A94-3(0〜180cm全層の11画分)の炭化水素含量を測定し, この炭化水素含量比のプロファイルを明らかにしたところ有機物層のこの含量比が15であり, 湖自生性の有機物でなく陸環境起源であることが示唆された(平成10年度)。また, 試料中の炭素安定同意体比を測定し, この比のプロファイルを明らかにしたところ有機物層の-29.2のδ^<13>C値であり、自主性有機物炭素は湖底堆積物にそれほど寄与せず陸域森林生態系の一次生産物を起源としているように思われた(平成11年度)。以上の結論として, この柱状試料から検出された芳香族酸は堆積過程の続成変化で生成したと判断される結論を得た。今後の課題として, このフェノール性有機物の変遷過程を明らかにすることである。
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